根管治療済みの歯の根尖病変、
第4章 治療の結果
前置き
根管治療したのに、その病変(根っこの影)が無くならない、あるいは新しくできてしまう事もある。
その結果、歯が痛くなり、抜かないとならない事や、時にはバイキンが広がり、更に治療費が必要になる事も
根尖病変が他の体の場所にも悪い影響を与えるといった研究も多くあるが、明らかではない。
この病気は歯科医の日々の診療に大きな影響を与えているし、社会や医療費の支払い基金にとっても重要な意味を持つ。
どの治療法を選ぶべきなのかは、費用対効果を考えるとハッキリとは言い切れない。
4.2 それぞれの関係者における結果の意味
ある同じ事実が、それぞれの異なった立場の物には違った意味を持ちます。
治療済みの歯の根尖病変には、3つの重要な視点、つまり生物学的、心理的そして経済的な視点に分けられます。
まずは直接的に影響を受ける患者の状態を調べる事が、最重要な点です。
また、歯科医は何とかしてこの状態に対処しようとし、その影響を受けます。
更には、保険会社や健康基金等の第三者支払い機関にとっても、重要な意味を持ちます。
様々な異なる視点から見たその異なる結果につき、考えていきましょう。
4.3 患者にとって
4.3.1 生物学的な面
4.3.1.1 痛み
専門医や大学で行われた研究から、
根管治療後に6ヶ月以上も痛みが続く場合が、5%の頻度で有りうる。
但し、この痛みの原因は必ずしも、根尖病変によるものだけでは無いことが重要だ。
4.3.1.2 症状が無かった歯が急に悪化
ある研究から、1032本の根管治療を受けた歯の1-2%で痛みを伴う悪化が報告されている。
またシンガポールの大学病院では、127名で185本の治っていない根管治療歯を調べたところ、20年間で5.8%にだけ急激な悪化が見られた。
ある期間に多少の痛みを経験した患者は40%程だった。
臨床的に不快症状と強く関連する事には、女性患者である、下の大臼歯と上の小臼歯の治療、そして治療前から痛みがある歯だった。
4.3.1.3 周りへの病気の広がり
歯の病気が周囲に広がり、死にいたる事があるのは良く知られている。
アメリカでは、9年間で61000人が根の膿が原因で入院している。
死亡率は1%で、66名が根の病気が最初の原因で亡くなった。
フィンランドの研究では、根の病気が原因で入院した60名の患者を調べた。
入院の主な原因となった歯の多くが、治療途中の歯であった。
治療済みの歯が原因であったのは、60名中わずか7名(12%)だった。
アメリカだけでも、4兆2千万もの歯が根管治療を受けており、そのうちの36%に病変ができている。
これらのデータから、根管治療後の根の病気が原因で入院が必要となるリスクは、一年間に200,000本に1本となる。
4.3.1.4 歯を失うリスク
北欧の研究で、根管治療済みの歯で抜かれたのは、10年間で12−13%だった。
オランダの研究によると、根に病気がある歯(治療途中と治療済み)は、病気が無い歯と比べて6倍も抜く可能性が高くなった。
スウェーデンでのある研究では、根管治療を受けた歯が20年生存する確率は65%だった。
他の研究によると、根管治療を受けた歯を抜く原因は、根管治療ではなくて、むしろ歯周病や虫歯、歯が折れるといった他の理由が多かったと言われている。
4.3.1.5 全身への影響
歯の神経の感染と全身の病気への関連性については、100年以上に渡り議論されてきた。
しかし、その証拠は乏しく、良い科学的な研究はほんのわずかでしかない。